価値のパラダイムシフトを起こす〜② 「伝泊 加計呂麻島」プロジェクト

価値のパラダイムシフトを起こす〜②

「伝泊 加計呂麻島」プロジェクト

物語

奄美大島北部の笠利町で2016年にスタートした「伝泊」は、徐々に島内外でも認知されるようになり、山下の元に様々な集落から空き家の相談が持ち込まれるようになりました。その中でも、加計呂麻島の古民家の話は心惹かれるものがありました。その古民家は、山田洋次監督の「男はつらいよ 寅次郎紅の花 (第48作)」で撮影に使用されており、以前の所有者が行政に寄贈していましたが、傷みが激しく取り壊す寸前になっていました。

また、もう一棟は15世帯で成り立っている小さな集落にあり、昔ながらの奄美の文化をそのまま残している大変貴重な場所でした。『どうにかしてこの集落の姿を継承し、観光客に昔ながらの本当の奄美の「時間」を感じてもらいたい』という山下の強い想いが結実しました。そして、この2棟の古民家が、2017年7月に「伝泊 加計呂麻島」として誕生しました。

背景・課題

地方の過疎化に伴った空き家の増加や、世界自然遺産登録を見据えた土地の売買で、奄美の宝である文化が衰退しつつあった。

山下の取組

山下は、奄美群島の70%の集落に実際に足を運んだことで「建物を守り、風景を維持し、集落文化を後世へ継承すること」への使命感が芽生えた。

効果・成果

加計呂麻島の特徴的な二つの古民家に出会い、いくつかのハードルを超えながら2017年に「リリーの家」「海みる屋根の宿」を完成させた。

今後の展望

交通の不便さにも関わらず、加計呂麻島の「伝泊」は人気を博しており、別の集落で追加契約している2棟の古民家を2022年度内にオープンする予定。


背景・課題

21世紀後半から、都市への人口集中による地方の過疎化、それに伴う空き家の増加が問題視されるようになりました。国交省を中心とした空き家問題解決の後押し、地域行政による空き家のリスト化が進む中、例に漏れず奄美大島でも各集落での空き家が目立ち、防犯上の観点から問題視されることが増えてきました。

奄美群島では、空き家問題と人口減少及び少子化を解決するために、都会からの移住の誘致をここ10年以上行っていました。また一方で、世界自然遺産登録を見据え、投機的な目的での土地の売買も始まっていました。このように外部の人が入ることにより、いくつかの集落では固有の文化が衰退し、奄美の宝が失われつつある状況でした。

山下の取組

加計呂麻島での「伝泊」のスタート

集落文化の価値に改めて関心を抱いていた山下は、2015年から奄美群島の約360ある集落のうちの70%に実際に足を運び、集落の匂いと時間を感じ、特色を調査していました。その中でも、加計呂麻島、請島、与路島の3島は、手付かずに近い大自然・珊瑚礁の石垣・原型に近い姿の民家が残っている印象深い場所でした。奄美の現状や失われた文化、衰えゆく文化への思いが膨らむ中で「建物を守り、風景を維持し、集落文化を後世へ継承すること」への使命感が芽生えました。

そんな折に出会ったのが、加計呂麻島の古民家でした。

それは、山田洋次監督の「男はつらいよ 寅次郎紅の花 (第48作)」で撮影に使用されていた古民家で、「リリーの家」という愛称で呼ばれていました。以前の所有者が行政に寄贈していましたが、実際には傷みが激しい状態であり、行政が補修をして再活用しようと建設業者に依頼しましたが、約1500万円という高額な見積もりを提示され、やむなく解体することが検討されていました。

そこで行政が最後の頼みの綱として相談を持ちかけたのが、山下だったのです。山下は、東京を中心とした馴染みの施工業者5社とタッグを組み、300以上もの建築を作った経験があったことで、構造・施工・見積もりなど、普通の建築家では持ち得ないような幅広く膨大な知識を持っていました。

リリーの家を前にして、なんとかこの古民家を守りたいとの思いからその依頼を承諾し、行政の見積もり価格の半分以下での改修を可能にしました。

効果・成果

奄美大島笠利町外で初の展開となる「リリーの家」

山田洋次監督から受け継ぐ

2016年に加計呂麻島を含んだ瀬戸内町から話をいただき、改修を行う前の住民説明会の際に、唯一解決できないリクエストがありました。それは、「男はつらいよ」で使用され、20年近くが経っても集落住民に愛されていた「リリーの家」という名前でした。宿の名称として存続させるために3ヶ月を要し、実際に山田洋次監督から使用の許可をいただいたことで、「伝泊 加計呂麻島 リリーの家」が誕生しました。

神がかった集落での展開「海みる屋根の宿」

加計呂麻島にあるもう一つの「伝泊」も、素敵な縁と出会いにより完成しました。それが「伝泊 加計呂麻島 海みる屋根の宿」です。

山下が奄美群島の今まで見た集落の中で、一番奄美らしいと感じているのが加計呂麻島にある15世帯の小さな集落「須子茂」で、今でも神がかった場所です。神様をお祀りしている神社、神様が歩く道、神様と交信する所が綺麗に現存し、生垣で囲われた民家の佇まいが美しい、博物館にいるような集落です。

そこで出会った築100年以上の空き家は、大阪にお住まいのお孫さんが持ち主となっており、使われていないまま長い時が経過していました。山下がなんとか使用の許可をもらえるようお願いすべく大阪まで足を運んだところ、その方が建築材料を扱っている会社に勤務の女性で、建築家である山下を知っていたこと、山下が奄美出身者であることが功を奏して、快く承諾してくれました。

偶然が重なり、古民家の存続が叶ったことは、加計呂麻島の神様の采配だったかもしれません。

また「海みる屋根の宿」と名付けられているように、屋根がとても特徴的な宿に仕上がりました。

この敷地は海に面した道路から、1.5mほど下がっています。そのため離れにあるお風呂場の屋根の高さは道路と1m弱しか差がなかったため、屋根に登って海を見るには最適な場所でした。山下は最初にその場所を見た際に、敷地から屋根に登るための階段をデザインし、屋根上のデッキと、お酒や食べ物を置くためのテーブルの設置を決めました。

訪れた場所から受けたインスピレーションをデザインに落とし込むのが、見るものを驚かせるスピードで進められることも、山下の特徴の一つです。

今後の展望

加計呂麻島には空港がなく、奄美空港から陸路と航路で3時間を要するため、決して交通の便がいい場所ではありません。しかしその不便さゆえに太古からの大自然や貴重な集落文化が守られてきたのであり、多くの観光客がこの秘境に魅了されています。

現在「伝泊」では、加計呂麻島の中央に位置する於斉集落の2棟の古民家を利用できるよう、すでに契約しており、加計呂麻島の文化の継承と観光客への提供をさらに進めていこうと考えています。現在はコロナウイルスの影響により思うように進められませんが、2022年度内のオープンを目指しています。

世界自然遺産登録や進化し続ける文明など、目まぐるしく日々の生活や情勢が変化していく中で、守るべき大切なものは何か。山下は奄美の宝である固有の集落文化を後世へ伝えるべく、先を見据えた取り組みを続けています。

文責:奄美イノベーション 広報部


<本プロジェクトの受賞歴>

2020年 第6回ジャパン・ツーリズム・アワード「国土交通大臣賞」「UNWTO 倫理賞」受賞

<本プロジェクトの掲載情報>

●雑誌・新聞

2021年1月号ANAグループ機内誌「翼の王国」

日本経済新聞2019年12月24日付、未来面「地方で育む日本の未来」

JALカードの会員向け情報誌「AGORA」2019年10月号

日刊工業新聞2018年3月30日付

「日経アーキテクチュア」2018年4月12日号

「ロケーションジャパン」10

●書籍

発行公益社団法人日本観光振興協会季刊「観光とまちづくり」

日本離島センター「季刊しま」

●web

「地球の歩き方」ホームページ、「伝泊 古民家」の「はたおり工房のある宿」掲載

「YOLO」

「FUTURE IS NOW」

 観光産業ニュース「トラベルボイス」

デザインのWEBメディア「URBAN TUBE」

 「URBAN RESEARCH MEDIA」

「URBAN TUBE」

「コロカル」

●TV

MBC南日本放送




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