韓国初、時代を先取る環境配慮型博物館 「釜山エコセンター」

韓国初、時代を先取る環境配慮型博物館

「釜山エコセンター」

物語

20世紀初頭から始まる近代建築の歴史は、新しい構造開発の歴史でもあります。今でも構造の主流である鉄骨や鉄筋コンクリートの開発により、歴史的な名作が次々と生み出され、20世紀半ばには似たような構造形式の建築が世界中に見られるようになりました。20世紀後半から山下は、優秀な構造設計家と組み、新しい構造や構法を開発し、見たことのない建築を生み出してきました。数々の建築で山下は世界的な賞の受賞や評価を受け、構造や構法の先端を走る建築家の1人となったのです。

そして、21世紀初頭、構造の開発の先に、山下は「地球環境の保全」というテーマを見出しました。敷地の声を聴き、そのポテンシャルを探りながら、より環境にやさしい建築を作ることを考え始めたのです。2004年、韓国最初の国際コンペティションで最優秀賞を受賞し、構造と地域素材と熱環境を一体に扱い、自然エネルギーを活用した次世代を見越したSDGs的な建築として「釜山エコセンター」を完成させました。

背景・課題

社会において「環境」というテーマが重視され始められる中、韓国で初めての環境配慮型博物館の設計を行うことに。

山下の取組

環境に配慮した素材の開発や設計に挑戦すべく、オリジナルな建築構法を作り出し、環境への配慮や地元のものを生かすことに注力した。

効果・成果

山下の本領が発揮できなかったが、釜山固有の素材の積極的な活用や、釜山の素材と日本の構法の掛け合わせによる外壁材の活用は大きな収穫だった。

今後の展望

世界に先駆けた環境配慮型博物館の完成は、その後の環境配慮型(SDGs型)の建築の模索に繋がり、最終的には「伝泊」の原点の一つとなった。


背景・課題

2004年は、山下にとって世界進出の記念すべき年となりました。ロンドンの「ar+d」主催の建築業界の世界新人賞において、日本人初となるグランプリを受賞しました。そして同じ年に、この「釜山エコセンター」最優秀賞を受賞したのです。

この建築は釜山の洛東江(ナクトンガン)河口にあり、韓国で初めての環境に配慮した博物館で、渡り鳥公園を保全・管理し、生物の生態に関する展示・教育・体験学習を市民に提供することを目的としていました。この施設は洛東江周辺地域の歴史や文化、洛東江河口の形成・特徴、食物連鎖、そしてこの地に訪れる渡り鳥の紹介など、この地域に関することが詳しく展示・解説してある、貴重な施設として建設されました。

「ar+d Award 2004」が主催する建築業界の世界新人賞にて、日本人初グランプリ受賞

山下の取組

2004年のコンペ時に提案した4枚のパネルです。

環境に配慮した素材の開発や設計に挑戦すべく、以下の4つをコンセプトに取り組みました。

①地元産の木材をふんだんに使ったオリジナルな建築構法による「木材のプレストレスト構法」の採用
②自然エネルギーを活用した新しいシステムの開発
③地元産にこだわった素材の活用
④地元を巻き込んだ新しい博物館運営の提案

今でこそ環境への配慮や地元のものを生かすことに多く取り組んでいる山下ですが、その原点となったのがこの釜山エコセンターでした。

釜山エコセンター プロポーザル案:地元の木材を使い、周囲の景観にとけこむ提案

効果・成果

地球環境的に先端を走っている国際コンペティションでしたが、韓国の建築法規上や、技術力、資金不足のため、山下の想いは半分しか実現できませんでした。しかし、地域素材の活用を徹底し地元の土からタイルを焼き、石を探すなどして建築に生かしたことは今に引き継がれています。

また、海の側に建つこの施設の外壁には、木材の腐敗を防ぐ技法として日本の瀬戸内海周辺地域で行われている木を焼く構法を生かし、釜山の松材でそれを実現させました。その土地にある素材と日本の構法を掛け合わせるという、山下独自の手法を実現した最初の建築であるという点でも、大きな意味を持っています。

2階は、間仕切りのない約2000㎡のメインホールを中心としており、床・壁・天井の4面全てを同じ厚みの木材とし、空間には点々と開口したスリッ トから自然光・人工照明による光を入れています。また空間の南北2辺、それぞれ幅33mの全面開口には広大な湿原のパノラマが広がっています。

建築空間と眼前の雄大な自然を同時に体験することで、ありのままの自然と我々の作為する世界との両方の価値を、再発見する場となることを目指しました。

今後の展望

このエコセンターが完成した21世紀初期は、世界的にも「環境配慮型の建築」がブームになりだしていた頃でした。山下は世界に先駆けて博物館を完成させ、その後も様々な素材や構法による環境配慮型すなわちSDGs型の建築を模索していくスタートを切ったのです。

この考え方は、後のアルミニウムプロジェクト、土プロジェクト、シラスプロジェクトに繋がっていき、最終的には奄美の「伝泊」によるまちづくりの展開が世界自然遺産の保全にも貢献していくのです。

文責:奄美イノベーション 広報部


<本プロジェクトの受賞歴>

2004釜山エコセンター国際設計競技「1等」

<本プロジェクトの掲載情報>

●書籍

「PRO ARCHITECT 44」2008年(ARCHIWORLD)

「Listen to the Materials」2012年3月(フリックスタジオ)

「天工人本」2006年9月(新建築社)




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