人がいなくなると自然はこんなにもよみがえる 「伝泊 小松」プロジェクト

人がいなくなると自然はこんなにもよみがえる

「伝泊 小松」プロジェクト

物語

石川県に位置する小松空港から車で30分の大杉町。その名前のごとく、かつて多くの固有の杉を産出し、林業で栄えた集落です。築150年を超える古民家の下里(くだり)家、前里(まえいえ)家は、住み手を失い、放置されていました。2019年、その古民家を利活用したいという小松市からの働きかけに応じた山下は、この古民家に封印されている100年以上もの「時間」と「文化」をよみがえらせる方法を考えました。

手仕事と生活の知恵が刻まれている地域の工芸文化を掘り起こし、集落住民が主役になった伝統食を再編集することによる地域の活性化を目指して、2021年4月に「伝泊 小松」はオープンしました。

背景・課題

奄美以外で初となる「伝泊」は、石川県小松市にある深緑と川の水が美しい大杉町にて、江戸時代後期から佇む2軒の古民家でスタート。

山下の取組

限界集落とその周囲の自然を持続させるために、緩やかなまちづくりを目指し、水・森・火・食・酒・工芸を集落住民と共有し得る場所を目指した。

効果・成果

大杉谷川の側の大きな庄屋だった古民家は集会場とホテルに、養蚕に使われていた中二階が特徴的なもう一つの古民家はお酒を楽しめる一棟貸しに改修。

今後の展望

本質的な魅力で満ち溢れている集落の小さな声に耳を傾け、人間本来の歓びに触れることのできる環境をよみがえらせることで、新たな未来を切り開く。


背景・課題

「伝泊」は、2016年に鹿児島県奄美大島にて空き家対策の一環としてスタートしました。2019年ごろからは、 取材や講演依頼、様々な地域・団体からのまちづくりに関する相談がくるようになり、その中でも地方行政と建築関係者からの強い要望を受け、実際に足を運んだのが石川県小松市でした。

小松市は、九谷焼などの伝統工芸が色濃く残っていますが、それ以上に魅力的で心を奪ったのは深い緑と川の水の美しさでした。その昔、林業で栄え500世帯以上あった集落は、今は30世帯ほどに減少しています。「人が少なくなると自然が生き返るんだ」というのが、山下が訪れた際の率直な実感でした。

その豊かな自然の中で江戸時代後期からこの地に佇む2軒の古民家は、廃れてはいたものの厳かで、「なんとか美しい形に戻して欲しい」と山下に訴えかけたのでした。故郷である奄美以外で、地域の人々の協力を得てまちづくりを進めていけるかという不安もありましたが、行政の応援と地元関係者の後押しでプロポーザルに勝ち、プロジェクトがスタートしたのです。

大杉の美しい大杉谷川
改修前の旧下里家
改修前の旧前家家

山下の取組

限界集落とその周囲の自然を持続させるための緩やかなまちづくりを展開すべく、以下の項目を課題として考えていました。

①古民家の下里家・前家家を改修し、宿泊施設としてだけでなく観光客と集落住民との交流拠点にすること

②地元に住む伝統工芸の職人たちのネットワークを生かした体験プログラムを構築し、

 観光資源の拡充及び伝統工芸の保存に寄与すること

③豊かな山林の恵みと食文化に価値を見出し、再編集すること

コンセプト

人口減少は自然の豊かさを変え、コロナは人のつながりと活動のあり方を変えました。視覚の重要性だけでなく、記憶に結びつく聴覚と嗅覚への切望も同時に始まりました。

新たな観光の芽吹きとなる「水」「森」「火」「食」「酒」「工芸」を集落住民と共に直接的、間接的に共有し得る場所を目指します。

効果・成果

奄美を飛び出した「伝泊」

奄美で展開してきた「伝泊」がその発祥の地を飛び出し、いよいよ全国への展開に進む第一歩を踏み出しました。伝泊は「アート」と切り離せない関係にあります。そこで伝泊を各地の伝統工芸と掛け合わせて、新たな魅力を創出し、地方のまちづくりを行う運営会社として「株式会社 伝泊+工芸」を設立しました。

大杉谷川に佇む囲炉裏の宿(旧下里家)

江戸時代に庄屋であったこの古民家は、瓦葺きの大屋根や、囲炉裏上部に天井を張らずに組まれた梁などが特徴的で、国の登録有形文化財にもなっています。当時の暮らしぶりを感じられるよう、囲炉裏には今では数少ない地元産の木炭で火を起こすことにこだわっています。またそこにアーティストによって作られた火棚を上部に取り付けたことで、江戸時代から続く「時間」とアートが新しい空間を創出し、集落住民と観光客が集う交流の場をあたたかく見守ります。

また古民家の裏に流れる大杉谷川は、奄美の海に匹敵するほど凛として美しく、清らかなせせらぎの音や香りも豊かです。「人と自然との対話」を促し、自分自身に奥深く還る体験を実現します。

外観写真
外部ウッドデッキ
一階レセプション
一階の中心に位置する囲炉裏
一階和室
一階洗面
二階洗面
二階廊下
二階ツイン
二階セミスイートと大杉谷川を望める窓からの景色

「心酌み交わす潤いの宿」(旧前家家)

「大人の秘密基地」をコンセプトとしているこの古民家は、かつて養蚕のために使われていた特徴的な中二階を、九谷焼の酒器と地域の日本酒が味わえる日本酒バースペースとして改修しました。二階は、伝統工芸品の小さなギャラリーの前室とツインの洋室があります。

一階では、かつて「オエ」と呼ばれていた「広間」を、広めの食事場所兼休憩スペースしてつくりかえました。

その奥の和室の天井はもとより漆で塗られていた高級感のある特徴的なものであったため、そのまま生かしています。古民家の改修では、古き良きものに敬意を払い既存のまま使用するものと、快適に滞在する上で重要な水回りなど一新するものとに区別されています。

外観
一階「オエ」を改修した広間と和室
一階洗面
日本酒バースペースとして改修した中二階
二階前室、ミニギャラリー
二階ツインの寝室

集落住民と連携した体験プログラム

まちづくりはその地域の理解がなくては成り立ちません。特に都市と隔絶された大杉町のような山間地域では、集落住民との協力が持続可能な運営を行うために非常に重要です。

観光資源が不十分の大杉町に新たな魅力を生み出し、地域雇用を創出するという意味も含め、集落住民による様々な体験プログラムを提供しています。

①食

季節折々の山菜等の山の幸の収穫や、郷土料理を集落のお母さんたちとつくる料理教室などの体験です。

②工芸

九谷焼に代表される陶芸や、地域の素材を活用した草木染・加賀棒茶染めなど、集落住民と作家たちの協力で成り立っています。

③里山文化

地元の炭を使い熊鍋や旬の川魚を囲炉裏で焼き、里山に暮らす人々が紡いできた暮らしの知恵や風習を感じる体験です。

④自然

施設の目の前を流れる大杉谷川で川遊び・魚つかみ取りを行え、周辺の大自然と一体となるようなハイキングなどの体験です。

今後の展望

世界は小さな集落で構成されていると、山下は考えています。

これまで暮らしていた人々が都会に出ていき、人の暮らしの痕跡が薄れつつある小さな集落にこそ、私たちが忘れかけている本質的な魅力が満ち溢れているのかもしれません。

鳥や小動物のつぶやき、川のせせらぎ、豊かな太陽の煌めき、雪深い山奥の静寂。集落の小さな声に耳を傾け、人間本来の歓びに触れることのできる環境をよみがえらせることにこそ、私たちの未来があると思うのです。

その豊かな未来をかたちづくるために、いまも山下は日本全国津々浦々の集落に赴いています。

文責:伝泊+工芸 広報部


<本プロジェクトの掲載情報>

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